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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)1855号 判決

本店所在地

東京都港区新橋二丁目二〇番一五号

福神商事株式会社

右代表者代表取締役

大鷲清人

右代表者代表取締役

緒方美恵子

本店所在地

東京都新宿区西新宿五丁目六番四号

株式会社 福神

(右代表者代表取締役 大鷲清人)

本籍

東京都港区虎ノ門一丁目二一番地

住居

東京都目黒区自由が丘三丁目四番三号

会社役員

大鷲清人

昭和一四年三月一二日生

右福神商事株式会社及び右株式会社福神に対する各法人税法違反並びに右大鷲清人に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

1  被告人福神商事株式会社を罰金三七〇〇万円に、被告人株式会社福神を罰金三三〇〇万円に、被告人大鷲清人を懲役一年六月及び罰金二五〇万円にそれぞれ処する。

2  被告人大鷲清人においてその罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人福神商事株式会社(以下「被告会社福神商事」という。)は、東京都港区新橋二丁目二〇番一五号に本店を置き、不動産売買及び飲食店経営等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社、被告人株式会社福神(昭和五五年八月四日設立。同月一四日までの商号は、株式会社福神。以下「被告会社(株)福神」という。)は、東京都新宿区西新宿五丁目六番四号に本店を置き、不動産売買等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社、被告人大鷲清人(以下「被告人」という。)は、右各被告会社の代表取締役として右各会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、右各被告会社の業務に関し、右各被告会社の法人税を免れようと企て、売上の一部除外、仕入の水増計上、架空経費の計上などの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社福神商事の実際所得金額が一億四八八〇万九四九四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五五年八月三〇日、東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一三万四八八〇円でこれに対する法人税額が一八万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第一二九三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額八二六六万六二〇〇円と右申告税額との差額八二四七万八一〇〇円(別紙(五)(1)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社福神商事の実際所得金額が一億一七九四万一八五九円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年八月三一日、前記芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七三万〇一〇四円でこれに対する法人税額が六三万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額六三四二万五九〇〇円と右申告税額との差額六二七八万九七〇〇円(別紙(五)(2)税額計算書参照)を免れ

三  昭和五五年八月四日から同五六年七月三一日までの事業年度における被告会社(株)福神の実際所得金額が二億〇五九八万八八二三円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年九月二八日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が一六五万三二八一円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額一億二三九八万七四〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れ

第二  被告人は、前記各会社の代表取締役であるかたわら、金銭の貸付などを行っているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右貸付金利息の収受を架空人名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五五年分の実際総所得金額が三四三四万七五一五円あった(別紙(四)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年三月一六日、所轄の前記芝税務署(被告人の同五七年一二月二二日ころまでの住所は、東京都港区高輪二丁目一番一一-七一八号)において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が八五二万五〇〇〇円でこれに対する所得税額が四五万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一一五六万三五〇〇円と右申告税額との差額一一一〇万八三〇〇円(別紙(七)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述並びに検察官に対する昭和五八年七月五日付、同月七日付、同月九日付及び同月一〇日付各供述調書

一  緒方美恵子及び馬場輝夫の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の商業登記簿謄本二通

判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(四)修正損益計算書の各勘定科目中の公表金額につき

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第一二九三号の1、2及び4)並びに所得税確定申告書一袋(同押号の3)

判示各事実ことに別紙(一)ないし(四)修正損益計算書の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の不動産売上調査書(同月八日付のもの。別紙(一)、(二)修正損益計算書の勘定科目中の各〈1〉。以下の調査書も収税官吏の作成したもの)

一  飲食売上調査書(同(一)、(二)の各〈2〉)

一  家賃収入調査書(同(一)、(二)の各〈3〉)

一  地代収入調査書(同年三月三日付のもの。同(一)、(二)の各〈4〉)

一  雑収入調査書(同(一)の〈5〉)

一  固定資産計上もれ調査書(同(二)の〈7〉)

一  不動産棚卸高調査書(同(一)の〈6〉、〈20〉、同(二)の〈8〉、〈21〉)

一  期首不動産棚卸高戻し分調査書(同(一)の〈7〉)

一  不動産仕入調査書(同日付のもの。同(一)の〈9〉)

一  支払手数料調査書(同年七月八日付のもの。同(一)の〈30〉、同(二)の〈10〉)

一  寄付金調査書(同(一)の〈42〉)

一  受取利息調査書(同(一)の〈48〉、同(二)の〈46〉)

一  貸金利息調査書(同(一)の〈49〉、同(二)の〈47〉)

一  債券償還益調査書(同(一)の〈50〉、同(二)の〈48〉)

一  雑損失調査書(同(二)の〈50〉)

一  貸倒引当金限度超過額調査書(同(一)、(二)の各〈58〉)

一  貸倒引当金超過額認容調査書(同(二)の〈61〉)

一  未経過支払手数科認容調査書(同(一)の〈61〉)

一  雑収入認容調査書(同(一)の〈62〉)

一  事業税認定損調査書(同年一一月一二日付のもの。同(一)の〈63〉、同(二)の〈62〉)

一  不動産売上調査書(同年三月四日付のもの。同(三)の〈1〉)

一  地代収入調査書(同日付のもの。同(三)の〈2〉)

一  受取手数料調査書(同(三)の〈3〉)

一  不動産仕入調査書(同日付のもの。同(三)の〈4〉)

一  期末不動産棚卸高調査書(同(三)の〈6〉)

一  支払手数料調査書(同日付のもの。同(三)の〈14〉)

一  雑費調査書(同(三)の〈23〉)

一  申告欠損金調査書(同(三)の〈27〉)

一  利子所得調査書(同(四)の〈1〉)

一  貸金利息(雑所得)調査書(同(四)の〈5〉)

一  給付補填金(雑所得)調査書(同(四)の〈6〉)

判示各事実ことに別紙(五)、(六)税額計算書の各番号12につき

一  土地重課税調査書二通(同年一一月一二日付のもの-同(五)、及び同年七月一三日付のうち「記録第六六五号」の表示のあるもの-同(六))

判示第一の一ないし三の事実につき

一  杉山茂(同年六月一五日付のもの)、池勝治(同月二一日付のもの)、酒井芳一(二通)及び藤倉謙至の検察官に対する各供述調書

判示第一の一、二の事実につき

一  被告人の検察官に対する同年七月八日付供述調書

一  池勝治(同月一三日付のもの)、高橋功、大鷲ヒロ子、西徳久、佐藤侃人(同月六日付のもの及び同月一〇日付のうち三〇枚綴りのもの)並びに村田光彦の検察官に対する各供述調書

判示第一の一の事実につき

一  岸コヅエ及び佐藤侃人(同年七月一〇日付のうち八枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書

判示第一の二の事実につき

一  中井嘉久の検察官に対する供述調書

判示第一の三の事実につき

一  杉山茂(同年六月一六日付のもの)及び矢島曻司の検察官に対する各供述調書

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する同年七月一二日付供述調書

一  柴田秀哉の検察官に対する供述調書

一  東京都港区長作成の身上調査照会回答書

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社福神商事

第一の一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条、第一の二の事実につき、右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条

2  被告会社(株)福神

第一の三の事実につき、右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条

3  被告人

第一の一の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において右改正後の法人税法一五九条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、第一の二、三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条、第二の所為につき、行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条、裁判時において右改正後の所得税法二三八条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

二  刑種の選択

第一の一ないし三の罪につき各懲役刑、第二の罪につき懲役刑と罰金刑の併科(被告人)

三  併合罪の処理

1  被告会社福神商事

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い第一の三の罪の刑に法定の加重)、四八条一項

四  労役場留置

刑法一八条(被告人)

(量刑の理由)

被告人は、昭和四二、三年ころから個人で営んでいた不動産業を同五二年七月、福神商事株式会社として法人化し、のちに従前から個人で営業していた煮込割烹「ふくじん」の営業も同社に取り込む一方、同五五年八月、右福神商事の営業のうち不動産の仕入、販売部門を株式会社福神として独立させ、被告人が中心となり、その努力と手腕により主として底地売買により着実に利益を上げていたものであるが、本件は、被告人が右両社において三事業年度にわたり合計二億六九二五万円余の法人税をほ脱し、また、被告人の個人所得に関し一年分で一一一〇万円余の所得税をほ脱したという事実であって、正規の法人税額に対するほ脱の割合、すなわちほ脱税率は、被告会社福神商事において九九・七七パーセント及び九九・〇〇パーセント、被告会社(株)福神においては一〇〇パーセント(欠損申告)であり、被告両会社通算して九九・六九パーセントに、被告人個人の正規の所得税額に対するほ脱の割合は、九六・〇六パーセントにも上っている。

被告人は、本件の動機につき、個人で不動産業を開始した当初から周囲の不動産業者が脱税しているのを見聞していたことから、飲食店収入のみを申告し、不動産業による所得の一切を申告しないこととするうち、今更不動産業等による多額の所得を申告するとその源資を税務当局から追及されて過去の脱税まで発覚してしまうとの考えから、その後も右の所得を引き続き秘匿し、被告会社福神商事設立後も資産蓄積のため過少申告に及び、また、被告会社(株)福神については会社設立後一、二年は欠損(赤字)申告をしても税務当局の追及を受けないと聞いたことから初年度の所得が二億円を超えるのに一六五万円余の欠損(赤字)申告をし、本件犯行に至った旨供述するが、右の動機が本件脱税行為を正当化するものと到底いえないことは多言を要しない。その他本件犯行の動機に格別の情状として酌むべき事情も何ら窺うことができない。

次に、本件脱税の態様をみると、被告人は被告会社福神商事、同(株)福神の行う底地売買取引等の不動産部門における営業で巨額の利益を挙げながら、底地を売り渡す相手の借地人との間に虚偽低廉の代金額を記載した売買契約書を作成して売上除外を行ったり、底地の地主から直接買い受けたものであるのに、この取引に不動産業者が介在したように装い、これと通じて内容虚偽の売買契約書、領収書を作成して底地の仕入額を大幅に水増計上し、また、底地売買等の不動産取引には何ら関与していない不動産業者等に依頼し、調査料、紹介手数料、配当金など種々の名目で架空の領収書を発行させ、巨額の支払手数料を計上する等、種々の脱税工作を行い、被告会社福神商事の飲食部門においても継続的に売上の一部除外を行ってきたものであり、更に、被告人個人の所得に関しては貸金利息、債券償還益等を仮名預金口座に振り込ませる等の所得隠蔽工作を弄して、いずれも虚偽過少申告をなし、判示のとおり法人税、所得税合計二億八〇三六万三五〇〇円という巨額の脱税を行い個人資産の蓄積等をしていたもので、まことに大胆かつ巧妙な犯行というべく、しかも被告人は右脱税工作を積極的にすすめ虚偽の証憑を作出する上で中心的役割を果しており、その納税意識の希薄さは顕著であるといわざるを得ないばかりでなく、被告人は右のような脱税をしていることが明白であるのに、本件の査察調査を受けた以降においてもなお、告発を受けて逮捕・勾留され検察官による取調べを受けるに至るまで脱税の事実を否認し続け、かつ、法人税の更正処分に対しては異議申立てを行い、前記架空の経理処理が真実であるとの主張をしていたものである等の事実を併せ考えると、その犯情はまことに悪質といわざるを得ない。

したがって、以上の各事実、特に被告人は個人営業時代はもとより被告会社福神商事として不動産業を始めた当初から不動産業による所得については一切納税する意思がなくして遂に本件犯行に及んだものであり、そのほ脱税率は一〇〇パーセントに近い高率で、ほ脱額も大きいこと、本件脱税は被告人が自ら積極的に計画、遂行し、被告人の個人資産の蓄積等に振り向けたという極めて大胆にして巧妙な態様によるものであり、その動機にも特段酌むべき事情が見当たらないこと等の事実に照らせば、その後被告人が反省し公判においても公訴事実を認めて争わず、刑事裁判の進行に協力し、本件二被告会社の法人税更正処分に対する異議申立ても全て取り下げ、本件起訴にかかる事業年度分を含めて更正処分を受けた被告会社福神商事、同(株)福神及び被告人個人の、法人税、所得税の本税分として既に合計四億六七八六万円余を納付し、残額三〇〇〇万円は昭和五九年三月中に、重加算税等合計約一億四九〇〇万円余は昭和六〇年度中に、関連の地方税本税の納付についても昭和五九年五月中に支払うべく目途を立てていること、被告人は今後再犯をしない旨当公判廷で誓約していること、被告人には禁錮以上の前科はないこと、並びに被告人の家庭の状況等、本件の審理に顕れた被告人のため有利に斟酌すべき一切の事情を最大限に考慮しても、なお被告人に対し主文のとおり懲役刑の実刑と罰金刑とを併科することはやむを得ないところであり、また、各被告会社に対しては以上の各事情、特にほ脱税率に照らし主文のとおりの罰金刑を科するのが相当である。

(求刑 被告会社福神商事につき罰金四五〇〇万円、同(株)福神につき罰金四〇〇〇万円、被告人につき懲役二年及び罰金三〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田真一 裁判官 羽淵清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

福神商事株式会社

自 昭和54年7月1日

至 昭和55年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

福神商事株式会社

自 昭和55年7月1日

至 昭和56年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

株式会社 福神

自 昭和55年8月4日

至 昭和56年7月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四) 修正損益計算書

大鷲清人

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(五) 税額計算書

(1) 福神商事株式会社

自 昭和54年7月1日

至 昭和55年6月30日

〈省略〉

(2) 自 昭和55年7月1日

至 昭和56年6月30日

〈省略〉

別紙(六) 税額計算書

株式会社 福神

自 昭和55年8月4日

至 昭和56年7月31日

〈省略〉

別紙(七) 税額計算書

55年分 大鷲清人

〈省略〉

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